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アハロン.アッペルフェルド著 武田尚子訳『不死身のバートフス』みすず書房.1996年 「戦争が終わり、死がその翼をたたんだとき、生きることは突如としてその目的を失った。悲しみが、鉄蓋のように生き残った者たちに覆いかぶさり、すべてを封じ込めた。戦争中には誰にも見ることができず、見ようともしなかった現実が赤裸々な姿を現した。われわれに残されたのは、自分のほか何もなかった」(アハロン.アペルフェルド:絶望を超えて) ホロコーストとは、それを生き延びた人たちにとって、肉体に刻まれた痛苦の歴史に過ぎなかったのだろうか。死の恐怖が去ったとき、彼らは救われた生命を新しい生活に向って、意気高く捧げることができたのだろうか。 解放後二〇年を経て、いまだにホロコーストの記憶にさいなまれる男の精神の深淵が、極度に切り詰めた文章の行間から伝わってくる。解放後の難民救出作戦では‘不死身のバートフス’と英雄視された男の、精神の再生への模索を描いたユニークな一篇は、読者をゆさぶり、ホロコースト理解への新しい目を開かせるにちがいない。